モーツァルトの交響曲 ヘ長調 K. 19aは1765年、モーツァルトがわずか9歳にして作曲した交響曲。成立は交響曲第4番K. 19よりも早かったという説が有力。1981年に個人蔵のものがバイエルン国立図書館の所蔵品となり、日の目を見ることになった。したがって、それ以前のモーツァルト交響曲全集(ラインスドルフやベーム)にはこの曲は収録されていない。イタリア風の三楽章構成で、クリスティアン・バッハ(J. S. バッハの末の息子)の影響を受けたという第一楽章、落ち着いた第二楽章、そして諧謔性のある第三楽章から成る。
モーツァルトは父レオポルトに連れられて7歳から10歳までの3年半に渡ってドイツの各地やパリ、ロンドンを旅している。旅行の目的は教育熱心な父親が息子に当時の最先端の流行を幅広く経験させようとしたことと、神童として名声を広めるべく各地の王侯貴族の下で演奏することだった。ロンドンには1764年4月から翌年6月まで滞在しており、この交響曲ヘ長調K. 19aを含め、いくつかの交響曲が作曲されたようだが、現存するのは3曲のみである。
名盤聴き比べ
モーツァルトの交響曲を聴くにあたって最初の分かれ目はモダン楽器か、古楽器か、というところだろう。聴いてみると分かるが一般にモダン楽器による演奏は音が分厚く豊かな感じがするのに対して古楽器による演奏はシャープでより室内楽的な印象を受ける。ただ、モダンであっても古楽器のピリオド奏法を意識した演奏をしている場合もあり、明確に白黒つけられるわけではない。また、繰り返しの有無や、通奏低音にチェンバロが使われたり使われなかったりするのでその点でも印象が変わってくる。
以下、録音年代順に私の所持盤を聴いてみる。

クリストファー・ホグウッドとエンシェント室内管弦楽団による1985年の演奏。出だしから古楽器パワーが炸裂している。第二楽章のアンダンテは比較的ゆっくりだが違和感はない。第三楽章も鋭い弦の響きがいかにもホグウッド盤。

ジェームズ・レヴァインがウィーンフィルを振った1990年の演奏。ウィーンフィルだけに許された極上の響きが心地よい。テンポ感は中庸で安心して聴いていられる。

チャールズ・マッケラスが1990年にプラハ室内管弦楽団を指揮した演奏。レヴァインの後で聴くと速いパッセージにキレがなくやや物足りなさを感じる。甘い演奏という意味でBGM的にはいいのかもしれない。第三楽章は前半のみ繰り返し。

トレヴァー・ピノックがイングリッシュ・コンサートと1992年に録音した演奏。ピノック自身がチェンバロ奏者であることから来る通奏低音の足腰の強さが魅力的。特に第一楽章は比較的速めで軽快。

ヤープ・テル・リンデンとモーツァルト・アカデミー・アムステルダムによる2002年の演奏。こちらも古楽器による演奏。チェンバロは使用されていない。典雅さを感じられる演奏ではあり、この曲の場合リンデンの丁寧なアプローチはそんなに悪くない。

アダム・フィッシャーとデンマーク国立放送シンフォニエッタによる2012年の録音。アクセントのつけ方がダイナミックなのだがそれが音楽的要請によるものというよりもフィッシャーの趣味という感じがして私は好みでない。
まとめ
以上、表にまとめると下記の通り。なお、第一、ニ、三楽章の演奏時間をそれぞれ1st, 2nd, 3rdの欄に記載し、一番早い演奏を青マーカー、遅い演奏を赤マーカーで示している。繰り返しが省略されている場合は太字で示している。第一楽章は速さの点で言えばそれほど違いはない。第二楽章はアンダンテだが結構差がついている。ホグウッドが一番ゆっくりなのは意外だ。マッケラスとリンデンは第三楽章の後半を繰り返していない。
録音年 | 指揮者 | オーケストラ | モダン/古楽器 | 演奏時間(計) | 1st | 2nd | 3rd | チェンバロ |
1985 | クリストファー・ホグウッド | エンシェント室内管弦楽団 | 古楽器 | 13:32 | 5:14 | 5:34 | 2:44 | あり |
1990 | ジェームズ・レヴァイン | ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 | モダン | 12:56 | 5:10 | 4:56 | 2:50 | あり |
1990 | チャールズ・マッケラス | プラハ室内管弦楽団 | モダン | 10:19 | 5:09 | 3:36 | 1:34 | あり |
1992 | トレヴァー・ピノック | イングリッシュ・コンサート | 古楽器 | 11:30 | 5:00 | 3:54 | 2:36 | あり |
2002 | ヤープ・テル・リンデン | モーツァルト・アカデミー・アムステルダム | 古楽器 | 11:18 | 5:04 | 4:43 | 1:31 | なし |
2012 | アダム・フィッシャー | デンマーク国立放送シンフォニエッタ | モダン | 12:37 | 5:09 | 4:50 | 2:38 | なし |
個人的にはモダンオケで言えば圧倒的にレヴァインが美しい。古楽器ならホグウッドとリンデンもいい仕事をしているが、イチオシはピノックという気がする。フィッシャーはクセがありどうも好きになれない。
なお、モーツァルトの交響曲全集についてはこちらの記事でまとめているのでよかったらどうぞ。
コメント